About the Town
汐凪町について
汐凪町(しおなぎちょう)。人口およそ6,000。海に向かって西に開いた、小さな港町。ローカル線「汐凪線」の終点で、線路は汐凪駅の車止めに突き当たって終わる。1日8本しか来ない。
朝凪、夕凪
朝と夕方、海風と陸風が入れ替わる数分間だけ、風が止まる。朝凪(あさなぎ)、夕凪(ゆうなぎ)。町の名前は、ここから来ている。
汐凪レコーズは、その数分間に鳴っている音を録っている。
地形
海は西。だから夕日は海に沈み、初日の出は山側から昇る。海沿いには北防波堤と渡船場、国道が南北に走る。少し内陸に汐凪商店街と汐凪線の線路。線路の先が汐凪駅、そこから山側へ上がる坂が八幡坂。上りきると、町と海が全部見える。
岬の先端には汐凪灯台。町から自転車で20分。柵の外は崖で、光は船に向けられていて、町には向いていない。
喫茶サンライズ
商店街の角に、三年前まで喫茶店があった。看板だけがまだ残っている。ここに集まっていたのが、後に3組それぞれの音になった。汐凪レコーズという名前より先に、この店があった。
町のカレンダー
- 1月1日
- 元日の日の出海が西なので、日の出は山側から。山へ上がる人もいれば、海を見て背中で朝日を浴びる人もいる。
- 3月末
- 三月の最終列車ダイヤ改正で本数が減る。町を出る人が乗る夜。
- 7月
- プール開き町営プールが夏だけ開く。塩素の匂いが夏の始まりの目印。
- 8月14日
- 汐凪花火大会小さい。打上30分。帰省ラッシュと重なる。
- 8月末
- プール閉め夏の終わりの目印。
- 9月
- 台風の翌朝防波堤に流木と海藻。空が異様に晴れる。
- 11月
- 十一月の時化船が出ない日が続く。渡船が休む。灯台だけが動いている。
汐凪町 年表
西暦は書かない。「何年前か」だけで数える。
- 六十年ほど前
- 汐凪線が開通。港からの積み出しのために線路が引かれた。
- 五十年前
- 人口がいちばん多かった。商店街のアーケードができたのもこの頃。
- 三十年前
- 港の積み出しが終わる。線路が運ぶものが人だけになった。
- 十二年前
- 第一中学が閉校し、第二中学に統合された。名前だけが残った。
- 六年前
- 駅員が朝夕だけになった。
- 三年前
- 喫茶サンライズが閉店。同じ年の三月、汐凪線が十本から八本になった。
- 今
- 次のダイヤ改正の話が出ている。まだ決まっていない。
- 「第二中学」なのに第一が無い。名前だけが残っている——この町で起きていることの縮図。
- 線路は港のために引かれたのに、港の役目はもう終わっている。それでも線路は残っている。
- 三年前に、店と電車が同時に減った。
汐凪商店街の九軒
アーケードの半分はシャッターが下りている。営業しているのは九軒。
1八百屋店先まで箱を出す。夕方には半分になっている。
2鮮魚店朝しか開かない。昼には水を撒いて閉める。
3精肉店コロッケを揚げている。夕方の匂いの正体はここ。
4理容店回転灯が一つだけ回っている。
5文具店第二中学の指定品を扱う唯一の店。
6薬局一番奥。夜も灯りがついている。
7米屋配達が主で、店番はほとんどいない。
8手芸品店開いている日が決まっていない。
9電器店修理の看板。新品はほとんど置いていない。
※ 喫茶サンライズは九軒に含まない(三年前に閉店)。角の物件は空いたまま。
喫茶サンライズ
商店街の角。カウンターと、四つのテーブル。
有線ではなくレコードをかけていた。この町で音楽がまとめて鳴っていた唯一の場所。
夕方になると学校帰りの子が来た。何も頼まずに長くいる子もいた。
閉店の理由は、店主の体調。三年前。
最後の日、常連が集まった。最後にかけた一枚が何だったかは、集まった人によって話が違う。
看板はまだ外されていない。中は暗く、埃をかぶったガラスの向こうに椅子が残っている。
- 湊ハル
- 常連だった。商店街で育った。
- サンライズ商會
- 店の名前を継いでいる。バンド名そのものが物語。
- 灯台守
- 明かされない。来ていたかどうかも分からない。